【2】


 -pm0:23

 いつのまにか、椎菜ちゃんが家に来る事になっていたらしい。というか、すでに昼食を作るとか言って、台所で準備を始めている。
 私とユイは食卓のテーブルの椅子へ腰掛けて、椎菜ちゃんの料理を待っている。
 ユイは相変わらず無垢な笑顔で、椎菜ちゃんが料理する姿を楽しそうに眺めている。
 
 それにしても……
 私とユイがそんな噂になっているなんて、思いもしなかった。私も以外と鈍感なのかもしれない。ユイには負けるけど。
 こうなってしまった以上、簡単に取り消せるはずもないし、その前にそんなに噂になっているのに今更「違うんです」とか一人一人に言うわけにもいかない。
 そうなると客観的に見て、ユイと仲良くしなければそんな噂もなくなってしまう。
 簡単な結論だ。だけど、よく考えたらそんな事する理由が思い当たらない。
 
 ユイとの関係が嫌だから?

 そんな事は決してない。ただ、意識していないのにそれほど私はユイの事を好きだったんだなぁ、と実感させられただけだ。
 だから、別にどんな噂を立てられようと構わないのだと思う。
 拒絶まがいの事をしているのは、やはり私にも多少の理性があるからだと言える。

「ねぇ、おねえちゃん。椎菜ちゃんと話すのって久しぶりじゃない?」
 と、ユイが話しかけてきた。そう言えば、最近はあまり会ってないような気がしたけど、いつも妹を追ってるうちに椎菜ちゃんはいつも側にいたから会話面以外では特に珍しいということはない。
 ……と、まるでストーカーだな、私。
「椎菜ちゃんの料理ってとってもおいしいらしいんだよぉ。楽しみだね」
 それは初耳である。
 しかし、私はユイの料理以外はあまり美味しいとは思ったことがない。時に外食をするとまずいと思うときもある。それほどユイの料理は美味しいのだ。
 そのユイに「おいしいらしい」と吹きこんだ親友の椎菜ちゃんの腕がどれほどのものか、実はちょっとだけ興味が沸いてきた。
 おそらく自分で美味しいと言ったくらいだから、並以上の味は保証できるけど、その程度ならそこらの店と変わらない。ユイの料理で鍛えぬかれた私の舌はそれは超をも揺るがす絶壁なのだ。よくわかんないけど、それほどユイの料理に骨抜きにされてしまったということである。
「出来ましたー」
 さーて、ちょうど良いところで料理も完成したようだし、ちょっと兆戦させてもらうね、椎名ちゃん。



 -pm1:30

 悔しいが美味しかった、というのが感想だ。本当、悔しいくらいに。
 昼食はサンドイッチだった。三角形な作りに、卵とキュウリ、トマトなどを挟んだシンプルな一品と紅茶である。
 そのシンプルな中にも素材がとても生きていた。今でもあのキュウリのシャキシャキ感が動いている感じ。どうやってあんな味と触感を出せるのか不思議でたまらない。
 もっと食べたい欲望に駆られたが、あまり数はなくて一瞬で無くなってしまった。ユイからも絶賛の好評があった。
 食べながらも見てたけど、ユイのあのサンドイッチをゆっくり食べる仕草が可愛くてたまらない。まるでリスのような食べ方でじれったく思いつつも、顔がとろけてしまいそうになる。
 今日は椎菜ちゃんもいたので、姉らしく毅然と(?)昼食を食べていたのだが、やっぱりユイは可愛い。かわいすぎる!

 それにしても、今日はなぜだか眠い。朝、歩き回ったからかなぁ。
 ユイの部屋とは違って、ほとんど何もない殺風景な部屋にベッドや家具が置かれているだけ。私はベッドに潜り込む。
 一回入った毛布の中は最初は寒いけど、どんどん暖かくなって出ようとする気力を失わせる。
 電気を消そうと思った瞬間には、私の意識は眠りの中へ。


 ――私は夢を見ていた。
 ユイが初めて高校の制服を着て、一緒に入学しようと決めていた時。……そうだ、これは2年前の記憶。
 私とユイは昔から仲が良くて、小学校、中学校と当たり前のように同じ学校へ通っていた。そして高校も同じ所へいくと約束していたのだ。
 真新しい制服に身を包み、とても嬉しそうに私に似合ってるかどうかを何度も聞いてきた。その姿がとても可愛くて……
 
 思わず抱きしめた。
 
 抱きしめた身体はとても小さくて、ちょっとふっくらした体つきをしていた。そして鼻をくすぐる後ろ髪の甘い匂いが私を興奮させ、熱い動悸を感じた。
 私、緊張してる……?
 どうして私はこんなことをしているのか。えっと、早く手を離さなきゃ、と思っても手が離れない。なぜだか離れてくれない。いや、離したくないのだ。
 このまま離してしまったら、どこか遠くへ行っちゃうんじゃないかと思った。なぜかは知らないけど、この身体を離したくなかった。
 今まで抱きしめられておとなしくなっていたユイは、しばらくして私のことをその小さな腕で抱きしめ返した。
 あ……
 おねえちゃん、と耳元でささやく声が聞こえる。か細い声が私の理性を奪ってしまいそうだった。
 思わず両頬を柔らかく包み、その先を見た。そこには天使の微笑みがあった。
 そして、私はその時から妹を好きになってしまったのだ。


 -pm2:30

 ……
 ん、あ……
 なんだろうか、まだまだ眠いのに身体が勝手に目覚めていく。
 私は電気を消すのを忘れていたことに気づき、慌てて消そうとする。もう一眠りしようかな。
 スイッチを消そうとした時

「ねぇ、いいじゃない」
「だ、だめだよぉ。おねえちゃんに聞こえるよ」
「大丈夫、大丈夫。先輩の紅茶だけ睡眠薬いれといたから」
「ええっ! すいみん……!?」
「そんな大声出さない。ちょっとだけだから大丈夫だって。今はぐっすり寝てると思うよ。だから、ね?」
「え、……でも、えぇと」

 なに? 睡眠薬?
 一瞬にして目が覚めた。何がどうなっているのかはまだ理解できていなかったが、とりあえず目だけは覚めた。
 椎菜ちゃんがまだ帰ってなくて、ユイの部屋で遊んでて、椎菜ちゃんが「いい?」とか言ってユイが「だめ」……?
 
 は???

「ね、ユイ。触るくらいならいいでしょう?」
「だ、だめぇ。恥ずかしいよぉ」
「服の上からでいいからさ」
「一緒だよ!」
「あー、しょうがないなぁ、ユイは。じゃああたしのも触らせてあげるからさ、それならいいでしょ?」
「えっ、えっ?えええええっ!?」
「だから声が大きいって。先輩起きるかもしれないじゃん。一回でいいからさ。ね、お願い!」
「うー、うーん……」
「もう、じれったいなぁ。……えいっ!」
「ひゃっ!」

 ……え、触る?何をどこを?触らせる?誰の何をどこをどんな風に?
 椎菜ちゃんとユイが交互に触る? さわりあいっこ?
 

 ……ちょ、ちょちょちょっと!!!!!!


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